目次

- 1. 材料が形状記憶合金となる条件
- 2. 形状記憶合金の メカニズム
- 3. 形状記憶合金の 変形特性
- 4. TiNi合金の特性
- 5.
形状記憶合金の
「記憶熱処理」って
どうやるの? - 6. Ni含有量と形状回復温度(AF)の関係
- 7. TiNi線の破断強度
- 8. 回復可能な歪み
- 9. TiNi合金のDSC曲線
- 10. 形状記憶効果・超弾性の温度域
- 11. TiNi合金の状態図
- 12. アクチュエータ材料 としての動作特性
- 13.
形状記憶合金の回転体
「熱エンジン」について - 14. TiNi合金の生体適合性
1.材料が形状記憶合金になる条件
形状記憶合金はなぜ超弾性や形状記憶特性があらわられるのでしょうか。
それは力や熱によって原子が「つながったまま」並び方を変える事ができる為です。
他の材料は原子の並び方が変わるときつながりが切れてしまうので、
力を抜いても温めても元の位置に戻る事ができません。
形状記憶合金はつながりが切れていないので力を抜いたり、
温めたりすると元の位置に戻る事ができるのです。
愛知教育大学 北村教授より
資料を頂きました

2.形状記憶合金のメカニズム
形状記憶合金のメカニズムを一般的な模式図をつかってご説明します。
上部中心にあるのが基本構造である(a)母相(=オーステナイト相)です。
これは変態点Afより温度が高い状態で力がかかっていない状態です。
(a)を変態点Mfより冷やすと左下のような構造(b)マルテンサイト相になります。
これは双晶という折りたたまれた屏風のような感じになっており、原子がつながったまま右下の(c)変形したマルテンサイト相に変形させることができます。
これを変態点Afに加熱するとまた(a)に戻ります。
これが形状記憶効果のメカニズムで実線の矢印のようになります。
また、変態点Afより温度が高い場合は力を加えると発熱しながら(a)から(c)になり、
除荷すると吸熱しながら(c)から(a)に戻ります。
これが超弾性のメカニズムで点線の矢印のようになります。

3.形状記憶合金の変形特性
各材料の応力ひずみ曲線です。
セラミックスはほとんど伸びずに破断します。
一般的な金属材料は伸びますが、除荷しても永久歪みとして変形が残ります。
形状記憶合金は変態点Afより温度が低いときは中央の形状記憶効果の線になります。
歪みの増加とともに応力が直線状にあがっていき、傾きが横になってからは除荷しても歪みが残りますが、
加熱する事により形状を回復します。
変態点Afより温度が高いときは右の超弾性効果の線になります。
傾きが横になるところまでは形状記憶効果の線と同じですが、除荷すると歪みが元に戻ります。
どちらも変形させすぎると永久歪みが残るのは他の金属材料と同じですが途中で除荷した時の様子が全く異なります。

4.TiNi合金の特性
TiNi合金の特性の一覧です。基本的な情報をのせてあります。一般の材料と比較して各物性値に大きな幅があります。
これは組成比、加工率、熱処理条件などにより材料の諸特性が変化する事に加え、温度などの測定条件によっても変化する為です。
一つの指標にはなるかと思いますが、実際に製品をつくる際には試作品の作成と確認を繰り返し、合わせこみをしていくことが多いです。

5.形状記憶合金の
「記憶熱処理」ってどうやるの?
弊社へのお問い合わせで多いものの一つに「形状記憶熱処理ってどうやってやるの?」
というご質問がございます。形状記憶合金の記憶熱処理の方法には各社ノウハウがあり、
弊社も詳細を開示する事はできませんが、一般的な方法をご紹介したいと思います。
(一社)形状記憶合金協会編著の「トコトンやさしい形状記憶合金の本」(日刊工業新聞社)には「記憶させたい形状に拘束して400℃から500℃の温度に加熱する」
とあります。
他の文献などでもそのような記載が多いようです。
熱処理条件により様々な熱特性が少しづつ変化します。吉見製作所ではお客様のご希望の物性になるよう、
条件を少しづつ変えて記憶熱処理を行っていますが、まずは上記の温度で数10分~1時間程度加熱後、急冷していただけるとよろしいかと思います。
6.Ni含有量と
形状回復温度(AF)の関係
TiNi形状記憶合金はTiとNiの組成比によって形状回復温度(Af)が変化します。
組成比が0.1%変化するだけでAfが10℃変化すると言われています。
その他にも加工率や記憶熱処理条件によってもAfは変化します。
吉見製作所ではお客様の必要とされる特性にあわせて諸条件を調整し、製品化しています。

7.TiNi線の破断強度
上記の数値はあくまで目安です。
使用される環境など諸条件により変わってまいりますので参考としてお考え下さい。
線の直径(mm) | 破断強度の目安(Kgf) |
---|---|
0.2 | 4 |
0.3 | 9 |
0.4 | 16 |
0.5 | 25 |
0.6 | 36 |
0.7 | 50 |
0.8 | 65 |
0.9 | 80 |
1.0 | 100 |
8.回復可能な歪み
TiNi形状記憶合金の超弾性材は見かけの歪みが7~8%変形させても元の形状に戻ると言われていますが、
部品として設計するにあたり、一つの目安が歪み5%程度かと思われます。
歪み5%というのは丸線であった場合、線の直径(D)のおよそ200倍の直径(200D)の円に沿って曲げたくらいになります。
すなわち、φ1.0mmの線材であった場合、直径200mmの円に沿って曲げたくらいになります。
また、繰り返し曲げのばしする際は歪みが大きいほど急激に疲労が蓄積し、破断等が起こります。
おおよその目安として10万回の曲げのばしをもたせたいのであれば歪みを1.5%程度までに、
1万回以上もたせたいのであれば歪みを2%くらいまでにしてご検討いただければと思います。
これは一つの目安であり、実際はその材料がどのような経緯で加工されてきたかや、
曲げるときの温度と変態点の関係、曲げる速度、材料の疲労の程度などによって変わってまいります。
また、両端をもって曲げていくと応力誘起マルテンサイトが起こり、カクンと曲がってそこに力が集中する為、
くせがつきやすかったりもします。
しかし、一般的なステンレスのバネ材の回復可能な歪みが0.5%程度と言われていますので、
超弾性は非常に魅力的な特性なのではと思います。

9.TiNi合金のDSC曲線
一般的なTiNi形状記憶合金のDSC(Differential scanning
calorimetry:示差走査熱量測定)
曲線を示します。
あらかじめ試料を充分冷やしておき、加熱していくとマルテンサイト相がオーステナイト相に変化します。
その際熱を吸収しますので、下向きのピークが出ます。
逆に充分加熱した試料を冷却していくとオーステナイト相がマルテンサイト相に変化します。こんどは発熱しますので上向きのピークが現れます。
As:オーステナイト スタート
Af:オーステナイト フィニッシュ
Ms:マルテンサイト スタート
Mf:マルテンサイト フィニッシュ
実際の材料はピークの幅が変わったり、いくつかに分かれたり、
R相という別の相のピークが現れたりしますが、DSC測定により各変態点を数値としてあらわすことができます。

10.形状記憶効果・超弾性の温度域
TiNi形状記憶合金には形状記憶効果と超弾性の2つの特徴があり、温度域により現れてくる性質が異なります。
形状記憶効果は材料をどれだけ冷やしても失われることはありませんが、超弾性は発現できる温度領域があります。
超弾性は応力を加えることによりオーステナイト相からマルテンサイト相に変化し、除荷することでまたマルテンサイト相からオーステナイト相に戻る事によって現れます。
形状記憶効果と異なりAfより温度が高ければ常に起こるというわけではなく、およそAfからAf+40℃くらいまでと言われております。
実際にはその温度を超えるとすぐ超弾性がなくなるわけではありませんが、使用する温度に注意する必要があります。

11.TiNi合金の状態図
TiNi合金の状態図です。
形状記憶合金になれるのはTi:Ni=50:50付近の、ごく限られた範囲です。

12.アクチュエータ材料としての
動作特性
TiNi形状記憶合金のアクチュエーターとしての特性を示します。比較的大きな力が働きます。

13.形状記憶合金の回転体
「熱エンジン」について
お湯であたためると直線に戻る形状記憶合金を輪にして2個のプーリーにかけ、
方端をあたためて少しまわしてやるとクルクルと回り続ける状態になります。
これはお湯に入る側(直線になろうとする)とお湯から出る側(冷えて柔らなくなる)の力の差で
プーリーとSMAワイヤの中心点がずれて回転力が生まれる事を利用しています。
また、コイル形状のバネを使用した機構もあります。
円板の円周上に個々に配置してあり、お湯に入ったバネだけが元の形状に戻ろうとする力を利用してまわるものです。
これらは実用化には様々な問題がありますが多くの大学・研究機関で研究が進められています。

14.TiNi合金の生体適合性
TiNi合金はNiを50%前後含みますので、「ニッケルアレルギー」を気にされる方も多いのではないかと思います。
特に医療関係、宝飾関係の方からよくお問い合わせを頂きます。
金属ですので「全く金属アレルギーが起こらない材料です」とは言えないのですが、
比較的金属アレルギーが起こりにくい材料です。
これはチタンが比較的アレルギーの少ない材料である事であることに加え、
TiNi合金は金属化合物というTiとNiが強固に結合した状態になっており、Niが溶出しにくい事によります。
三重大学の先生方から頂いた資料の抜粋を掲載いたしました。


